Loveletters from UltimaThule

極北からの本と映画の備忘録

名前について

 自分の名前にずっとなじめなかった。嫌いというか、その名前が自分を指し示す音と記号であることにぴんときていなかった。自分の顔に対しても同じ感覚があった。自分が顔を持っていること自体に違和感があった。鏡を見ても自分の顔とは思えない。他人のような、知らないひとのような。自分の名前って、顔ってなんだろうと、鏡をみるたびにずっと思っていた。

 自分と世界は、ものすごく分厚い透明な壁で隔てられている。そんな感覚がいつもどこかにある。現実の実感が少ない。遠い世界や見知らぬ星のほうが恋しく思える。家族のなかで育った時間が少ないことに関係があるのだろうか。もともとの性格なのだろうか。そんなこと、わからないけれど。

 でも不思議なことに、最近、自分の名前が好きになりました。前よりはなじんでいます。HNよりも名前で呼ばれるほうがしっくりきます。呼ばれるたびに、以前よりも自分の手触りを感じています。自分が、彼岸ではなくいまここ、この世界にいるという感覚が前より確かにある。それは幸福なこと。たぶん、以前よりは幸せなのです。