雪の日に
目が覚めたら雪だった。曇天のもと、うっすらと白銀色に光る世界の美しさに見とれる。小さい頃から雪で浄化された空気を吸い込むと、透明になれそうな気がしている。窓をあけて冷たい綺麗な空気を身体の隅々までゆきわたるように、静かに息を吸い込む。そうなれたためしはないのだけれど、そうしてみたくなる魔力が雪の朝の空気にはある。降り続ける結晶の美しさをいつまでもみつめていたくなる。時間の観念がなくなる。スノウドウムの中にいるような、閉じられた世界の心地よさ。雪は昼には雨になり、夕方にはすっかり溶けた。今朝は寒かったね、雪だったね、暖めてあげればよかったね、と夜に手をつなぎながら言葉を交わし、本の話をし、映画を見に行く約束をする。
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眠ろう、と囁く声がしたので、そっと抱き寄せて愛撫する。あたたかくやわらかくちいさくてすべすべして心地よい、でもそのなにかの名前がわからずに、静かに触れつづける。名付けたくて知りたくて。指先につたわってくるかすかな鼓動。とても懐かしい匂いがゆるやかにたちのぼって全身が包まれていく。いつしか呼吸が深くなっていき、全身の力が抜けていくのがわかる。眠ろう。声が耳元で繰り返す。そっと目を閉じる。世界が消える。うん、眠ろう。おやすみなさい。
この星に生まれた思い出に
人生の残りの時間をどう生きようか。イコール、どう死にたいか。昨年からずっと考えているのはそんなことばかり。いつも考えてきたことではあったけれど、これまでよりもいっそう強く、考えている。この星に生まれた思い出を、たくさんつくりたい。そう積極的に思えるようになったのは最近のこと。そうそう、今日はお弁当を買って屋上で食べたんだった。お天気がよくて、空も高くて気持ちいい午後のひとときだった。